2015 北里大学 医学部 医系小論文 模範解答
異なる二つの未来像 医療制度の選択 (17字)
これらの国々は,医療の提供が,できるだけ万人に行き渡るように制度が設計されているためである。例えば,日本の皆保険制度の場合は,治療の多くは,保険が適用される。そのために自己負担額が少なく,広く万人に高い水準の医療が提供されている。その反対に,アメリカの場合は,国民は自ら高額の医療保険に加入し対応するか,もしくは,全額を自己負担ができなければ,そもそも医療を受けることができないためである。(197字)
私は,原則として,今後も現在のような皆保険制度を中心に据えた医療制度を維持すべきと考える。ただし,国の医療費抑制や高齢社会でも持続可能な医療制度とするために,現在の医療制度をどのように微調整するかが,今後の課題である。その具体的な方策として,三点が考えられる。
一点目は,高齢者の疾病の予防対策の導入である。予防的な観点は,医療費全体の削減に繋がるために,医師としては苦しいかもしれない。だが,現在の日本の置かれた状況下で,医療界は,短期な視野からでなく,長期的な視野からも積極的に取り組むべきである。
二点目は,残薬問題への対応である。現在の医療現場においては,必要以上の薬剤が大量処方されているとの指摘がある。このことは,税金による医療費の拡大につながっている。そのために,薬の過剰処方が,不可能な仕組みの導入を検討すべきだろう。現状では,薬が大量に処方されていても,国の存在が見えにくいために,薬の抑制が進みにくいからである。
最後に,医療全体のリスク軽減の問題である。現在,外科や産婦人科といった患者からの訴訟リスクを抱える分野を志望する医師が減少している。訴訟などのリスクが高まってしまえば,その分野の担い手が減少することは当然だろう。そのために,無過失保障制度の導入や,適切な医療過誤の調停制度の導入を行わなくては,現在の医療水準を維持していくことすら,今後は厳しくなるだろう。(596字)
少し解説
問2に関しては,少し,日本の皆保険などの知識が無いと答えにくい問題かもしれない。
問3に関しては,文章を読解して感じるはずだと思うが,日本の医療の実態の認識としても,日本の医療制度は海外に例をみないほどの優れた制度である。ということは,できれば知っておいて欲しい。なので,記述の内容もできるだけ現状の仕組みを変更せずに,どうやって制度を維持していくか?という観点で記述している。その上で,現在の医療現場の抱える問題点を適切に指摘していければ,良いだろう。何度も書くが,日本の医療制度自体は,世界水準で見ても大変理想的である。ただし,その水準は,今後の少子高齢社会や日本の国力的に維持できる保証がないという点が問題なのである。そのために医療界としてもできるだけ,節約をしていかなくてはいけないという視点も組み込み記述している。