2015年の名古屋大学 法学部 小論文に対する模範解答
問1
筆者は,主権論は,そもそも膠着した状況を打破する際に有効な概念であると述べている。またその上で,主権論は絶対者と僭称し,法秩序にとっては,本来的に脅威であるとも述べている。この主権論が,フランスと比較し地域主権状態で膠着したドイツにおいて,地域から国家を作るために用いられていった。しかし,ドイツ国家は連邦という形で,主権を各地方王国に認めよという状況下で国家を形成した。その際に,本来あるべき国家の定義から,主権が取り外され,地方王国は国権をもつという形で,非主権国家であると説明した。こうした経緯で、ドイツはかろうじて近代国家を成立させた。
しかしこの対応が,自治を行う自治体と国権を持つ各地方王国との質的な差がなくなるという事態を生み,新たな論争を引き起こした。この論争の際に,生まれたのが固有権説である。固有権説は,自治体の持つ自治という権力を固有のものとみなす。この説は,国家は地方から解体することができ,また国家を地方の集積体として生み出すことが可能であるという見解を生むことになってしまう。
こうした固有権説が,ようやくドイツで生まれた近代国家が解体してしまうという事態を招きかねない。その反論のために,伝来説という見解が生まれ,あくまで権力は国家から伝来したものだという説明を生んだ。この伝来説が,主権国家と非主権国家,自治体という三元的構成する考え方であった。(596字)
問2
筆者は,まず主権概念のもつ本質的な危険性について述べている。その中で,現在の地方主権という名称で進められる改革に潜む,言葉の軽さについて危機感を表明している。主権論が,もし現在の法秩序を破壊した際には,後始末をどのようにするのかという問題も生むためである。
私は,日本社会の構造変動の問題を,解決しようとする際に生じる政治的文言と法律的文言の乖離をどう認識しておくべきかについて論じる。本文で筆者が指摘するように,政治的文脈で語られた言葉が,仮に法律的用語の中で採用されてしまうことになれば,法学も持つ論理整合性や法学が築きあげてきた 体系を失うことに繋がる危険性がある。その点を踏まえれば,役人によって地域主権は政治的なスローガンであり,法律の起草段階においては,主権を法概念に盛り込まずという,二面的な対応が好ましいということになる。
無論こうした事態を是認していくと,役人が作成する法律が恣意的となるといった問題や,本来,立法府の代表としての議員が,法律的文言をきちんと理解していないという別の問題 が浮き上がってくる。そもそも議員は,必ずしも法律の専門家として,選挙で選ばれるわけではないため,こうした問題が浮き上がるのも,必然である。
まずは,こうした二つの文言の乖離の実態に対する認識を改め,日本の民主政治においては常態化していると認識すべきではないだろうか。その上で意識しておくべき大事な点が二点ある。一点目は,いかに役人に利する形での恣意的な法の作成を防ぐのかという点である。また二点目は, 議員に法律的な文言の制約を理解させ,その制約を選挙の争点として,変化させようと意識させることができるかという点である。さらに議員が法律の制約を意識し,社会の構造変動でよりラディカルな変化を求める場合には,国民に対して憲法をどのようにすべきかという議論をより深めるべきだろう。(795字)
問1は,資料を精読し,しっかりと抜き出すポイントを理解できれば,なんとか対応できるとおもう。
そのためには,論理を構成するキ-センテンスの1文をしっかりと見抜いていき,抜粋すれば最低点は取れるようになる。
問題は,問2で 筆者の評価は見抜けたとして,この問題をどのように論じるか?という題のために
この問題(日本社会の構造変化)をどう論じるかを示す必要がある。
課題文の内容を踏まえると 日本社会の構造変化のために,憲法を改正すべきだという論点設定でも構わないだろうし
いや,憲法改正という論点からでなく,法制度内で論ずべきだという点でもよいと思う。
この前提で論述する際には,憲法についての自身の前提をきちんと明示する必要があるので,気をつけないといけない。